【本要約】「感情」の地政学

【本要約】「感情」の地政学

2021/12/22

地政学 … 地理学と政治学を合成したもので、そのリスク要因のこと
地理的な位置関係による、政治的や軍事的、社会的な緊張の高まりが、その地域や世界経済に与える悪影響のことを指し、近年では投資判断に大きな影響を与える要因となっている。

感情と自信

恐れ・希望・屈辱の感情「自信」という概念と深く結び付いている。自信とは、国家や人間が、「自らの抱える難題にどのように取り組むか」また「互いにどのように関わり合うか」を決定付ける要因である。

  • 恐れは、自信が欠如している状態をいう。
    人生が恐れに支配されている人は、現状に不安を抱き「将来はますます危険になる」と考える。
  • 希望は、自信の表明である。
    「昨日より今日、今日より明日が良い日になる」という確信に支えられている。
  • 屈辱は、将来に希望を持てなくなった人の、傷ついた自信をいう。
    希望が持てないのは、過去に自分にひどい仕打ちをした他者のせいだ。
    美化された輝かしい過去と、腹立たしい現状とがあまりにも対照的なとき、人は屈辱に襲われる。

この三つの感情を要約すれば、

  • 恐れは「なんてことだ、世界がこれほど危険な場所になるとは。どうすれば身を守れるだろうか」となる。
  • 希望とは「やりたい、やれる、やろう」である。
  • 屈辱とは「そんなことができるはずがない」であり、ひいては「お前たちに加われないからには、破滅させてやる」になりかねない。

三つの感情は、自己に対する信頼の度合いを映し出す。自信は個人にとってと同様、国家や文明にとっても大切なものだ。自信があれば、自らの将来像を描き、能力を十分に発揮し、それを超越することさえできる。

自信は、健全な世界を作る最も重要な要素の一つなのだ。「自信」ほど抽象的な特性を、国レベルで計ることはできるのだろうか。いくつか方法はある。自信は主観的に計れるように、客観的な方法で計ることができる。

  • スポーツ・建築・芸術。・音楽
    例えば、オリンピックで、国民が盛り上がり、日本人が金メダルを取ることで、「世界一になった国である」として、自国に自信を持つ。
  • 信頼感指数
    国民が自国の将来に寄せる信頼の度合いを、具体的には支出パターンなどによって、科学的に計測するものだ。自信は、投資水準にも表われる。
  • 出生率
    経済や社会の発展は、個人主義の高まりをもたらし、生活水準の向上とともに、出生率の低下を促すことがある。
    だが、経済や社会への絶望も、出生率の低下をもたらし得る。これは繁栄ではなく、失意の表われだ。

地政学では、自信は国家間の合意に表われることがある。

感情のエネルギー

「感情の衝突」のダイナミクスこそが、現代の世界を大きく方向づけている。

なぜ今感情なのか?

ヒト・モノ・カネ・サービス・情報とともに、人々の感情までもが、国境を越えて、ますます自由に行き来するようになっている。そしてグローバリゼーションの進展に伴う地球規模での競争激化により、世界中で不安が増大し、それに触発されて、さまざまな感情が開花し、爆発している。

インターネットをはじめとするメディアの発達により、私たちは世界中の人たちの暮らしぶりを知り、その生の感情にリアルタイムで触れるようになった。

今や、感情が、国際情勢を大きく左右するファクターの一つになっている。

そしてこの激動の時代にあって、アイデンティティを模索する人々の営みが、歴史を動かす原動力の一つである

アイデンティティのよりどころとなるのは「自信」であり、その自信と切っても切り離せないのが、「屈辱」「恐れ」「希望」という三つの感情なのだ。

この三つの「感情の文化」によって、世界を大まかに三つに分類する。

  • 歴史的衰退感がもたらす屈辱にとらわれたイスラム。
  • 他者への恐れという共通の文化を持つがゆえに離れゆく、アメリカとヨーロッパ。
  • そして、この二つの文化の衝突を傍観者として眺める、希望に満ちたアジアだ。

国際関係を分析するツールの一つに感情を加えることで、単純な決定論の持つ限界や危険を修正し、世界をより深く理解しようという試みなのだ。

感情とは定義上主観的なものであり、まさに、その理由から、これまで分析の対象から外されてきた。しかし、あえて感情を卓上に載せないことには、「この世界で何が起こっているのか」さえ、把握できなくなっている。

何より大切なのは「感情は、文化・宗教・地理といった要因とは異なり、人間の意識の持ちようによって変えられる」という点だ。

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