【本要約】なぜヒトだけが言葉を話せるのか
2022/5/11
コミュニケーション
「 言語の起源と進化 」と「 ヒトのコミュニケーション 」である。
チャールズ・ダーウィン
ノーム・チョムスキー
彼らそれぞれの学問分野は、哲学・生物学・言語学であり、この主題は学際的である。関連分野が幅広いのは、言語とコミュニケーションが、ヒトの生活において果たす役割が重要であることを反映している。
なぜ、コミュニケーションが、ヒトという種でしか進化しなかったのか?
- コミュニケーションは、ヒトに固有の社会的な認知様式に依存している。
- その認知様式はヒトが社会性の生き物である結果として、進化した。
コミュニケーションへのアプローチ
- 字義通りの意味とは、発言中の表現を辞書的な定義に基づいて解読して得られる意味
- 話し手の意味とは、話し手が実際に伝えようとした意味
「 雨が降っている 」のような発話であっても、発話者が『 発話によって伝達しよう 』とする意味は「 やっぱり出かけたくない 」とか「 傘を持ってきて 」など、いくつもありうる。単純明快な発話であっても、文脈次第で様々に異なる解釈が可能である。これを、決定不十分性という。
発話の字義通りの意味のみでは、話し手の意味を決定するのに十分ではない
言語によるコミュニケーションは、字義通りの意味だけではない。
言語が生じたのは、新規のコミュニケーション様式が進化の途上で創出された結果である。
- 決定不十分性は、本質的かつ不可避の特徴である。
- 決定不十分性は、曖昧さや誤解の原因になるため、コミュニケーションシステムにとっての短所である。
- 決定不十分性は曖昧さを招くが、一方で、長所でもある。
- 決定不十分性は、コミュニケーションを、驚くほど柔軟で、創造的で、愉快にもする。
コミュニケーションとは何か?
コミュニケーションとは、何らかの伝達経路を介して情報を伝えること
■ コードモデル
■ 意図明示・推論モデル
■コードモデル
情報は、コードに従って信号に変換 ( 信号化 ) され、その信号がこの経路を通して送られ、送られた先で解読される。信号化と信号解読のアルゴリズムが適切に対応していれば、出発点で信号化される情報は、終点で信号が解読されて得られる情報と同じである。その結果、情報は発信者から受信者へと転送されたことになる。
■ 意図明示・推論モデル
私たちは、世界を何らかの手法で心的表示 ( represent ) している。
・心的表示には、信念・思想・想定・目標・知識というような種類がいくつかある。
・心的表示は、変化する可能性がある。
心的表示の変化は、新しい入力を与えられたために、自分が既に持っている表示を何らかの点で変化させたり、新しい表示を作り出したりしたほうがよい場合に起こる。
- 発信者の意図を達成するために、その証拠を受信者に提示する。
証拠
「 発信者が、受信者にどういう変化を引き起こそうとしているか 」
「 受信者が、もともとどういう表示を持っているか 」 - 発信者は「 受信者が、自分の意図を推論し対応してくれるよう 」に期待する。
コミュニケーションの意図
- 情報意図
発信者が「 伝えようとしている内容を受信者に認識してもらおう 」という意図
発信者の行動を受けて、受信者に「 世界についての自らの表示の内容を変えてもらおう 」という意図 - 伝達意図
「 コミュニケーションをしよう」という私の意図
「 私が情報意図を持っている 」という事実の表示を「 聞き手の中に作り出そう 」という私の意図
・意図明示:発信者が、証拠を提供する
・推論:受信者が、その証拠を解釈する
動物のコミュニケーション
動物のコミュニケーションのほとんどは、コードモデルである。
- 「 言語コミュニケーションもコードモデルに従って機能する 」と一般的には想定されていが、実はそうではない。
- 言語コミュニケーションは「 意図明示コミュニケーションが、共有された伝達上の慣習の集合によって増強された 」ものの一例である。
- コードモデル・コミュニケーションを可能にする「 自然コード 」と、意図明示コミュニケーションを増強する「 慣習コード 」とを区別することが重要になる。
この2つのコミュニケーションのモデルの間で異なる点があるが、意味の本質は「 何らかの設計にしたがって他者に何かをする 」という機能を果たすことだ。
言語進化
言語コミュニケーションは、意図明示コミュニケーションの一種である。
- 初期の慣習は一語文的であった。
音声であれジェスチャーであれ「 話し手が伝達しよう 」と意図する意味に最も適した媒体を用いていた。 - 慣習が複数組み合わされることを通して、原型言語が出現した。
- 一部の慣習は、後に、文法機能を帯びるようになった。
- 個々の言語が、発達する原動力になったのは、文化的牽引であった。
- 個々の言語は、ヒトの心とヒトの行動に適合するように変化していった。
意図明示コミュニケーションはこのプロセスにおいて重要な牽引因子である。
言語固有の認知能力があるならば、その進化的機能は言語コミュニケーションの質を向上することになる。
意図明示コミュニケーション ( 言語コミュニケーションはその一種 ) の進化的機能
・他者の心を読むこと ( 聞き手側の機能 )
・他者の心を操作すること ( 話し手側の機能 ) である。
話し手も聞き手も、進化の結果として、意図明示コミュニケーションの効用と利便性を高めている。
ヒトだけが言語を持つのはなぜか?
言語の誕生
- あらゆる霊長類の中で、ヒトだけが大規模で複雑な社会集団で暮らし始めた。
- 自然選択の作用で、社会的認知が一般化し、意図明示コミュニケーションが可能になった。
- 私たちの祖先たちは、この新しいコミュニケーションの方法を強化するために、様々な慣習コードを共有しはじめた。
- 慣習コードが、固定化していって、現在の諸言語ができた。
この過程が、あらゆる生物種の中で、ヒトだけが言語を持っている理由である。
言語的思考
言語とは何かを考えるにあたって、第一原理である。
言語は、私たちの遠い祖先において、
・コミュニケーションを強化するために現れたのか?
・思考を強化するものとして現れたのか?
チョムスキー
- 言語の意味 ( 概念と、概念の組み合わせである思考 ) は、意識できない。
- 意識できるのは、言葉の表現が有意味か否かくらいである。
- 意識できるように思えるのは、言語と結びついた発音が意識できるからである。
- 人間は、意味が結びついた発音を取っ手として、思考を行っている。
- 言語は、ある意味での意識的な思考を可能にした。
思考を意識可能にすることを進化的機能として言語が始まったとは、断言できない。
進化の当初と現在で機能が本質的に変わってないことを前提とする。言語が「 何のために進化したか 」を根拠にして、現在の言語の性質について議論する。子どもの言語コミュニケーションの発達が、想定される言語進化の過程を繰り返しているのであれば、現在の大人の言語においても根本的な性質は変わっていない。
・話し手の表現しようとした思考ではない
・話し手の意図した聞き手の心的状態の操作である
自然言語の意味論としては、表示的意味論ではなく、操作的意味論が適当である。
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