【本要約】橋爪大三郎といっしょに考える宗教の本
2022/1/15
宗教の誕生
神様が「本当にいるかどうか」を尋ねたら、地球上の半分以上の人は「もちろん」と答える。日本でハッキリと「神様はいる」と答える人は少数派である。「神様は見えないから、迷信だ」と言う人もいるだろう。
一方で、自分の五感で存在の有無を確かめて「ある」とか「ない」とかいうことができる範囲は、実は、ごく限られたモノなのだ。
・モノゴトをどう捉えて、どう考えて、何を信じるか?
「神様はいる」とも言えないし「神様はいない」とも言えないし「どちらが正しい」とも言えない。
宗教は高い知性を持つ人間が生み出さずにはいられなかったモノで、知的な活動の産物である。
人は死ぬ、やがては自分も死ぬ。自分が生まれる前に既に世界は存在し、自分が死んだ後もこの世界は続いていく。こんな現実認識を持っていることは、人間と他の動物との大きな違いである。
自然と共生していた時代、世界と自然は等しいモノだった。自然は人智を超えたモノとして見なせば、自分の生きる意味を考えずに済んだ。しかし、人間が自然に手を加え、文明を築きはじめると、生きる意味や価値を求めるようになった。知性の限界を超え「考えられないことを考えよう」と苦闘する中で、宗教は産声を上げた。
死の概念を理解するだけの知性、自分の力ではコントロールし得ない不安や恐怖といった感性が、宗教を形作っていった。
何を指して宗教というのか、その定義は様々だ。日本人は、宗教は「神様や仏様を信じて祈ったり拝んだりすることだ」と捉えてしまう。宗教は、神を崇拝するだけではない。行動様式も宗教のひとつである。行動様式、個人の考えや行動には、それぞれの信念や信条が反映される。
「行動様式のベースには個人が属する集団で共有される価値観がある。集団の価値観の核が宗教である。」とする宗教社会学的な見地である。宗教社会学とは、宗教を通して人間社会について考える学問分野である。
普遍的な価値観を示した「キリスト教・イスラム教・仏教・儒教」といった宗教を核に世界は再構築され、文明が発展した。
宗教は大きく、キリスト教・イスラム教・仏教・儒教に分けられる。
・キリスト教、イスラム教:神
・仏教:法
・儒教:聖人
先進国は、キリスト教文化圏が多い。それは、キリスト教を核とする価値観から導き出されるシステムが、経済発展に寄与していたからだ。日本は、明治維新以降にキリスト教文化圏の価値観だけを導入して、非キリスト教国のまま先進国となった異例の国である。近代化がキリスト教文化圏である以上、異なる宗教を核とする国々は、キリスト教のルールは受け入れ難かった。
- 日本では「困ったときの神頼み」に象徴されるように、宗教が「知的な営みである」という認識がなかった。
- 宗教より、商売・政治・学問を重視する姿勢があった。
- 「経済に利する」とあれば、キリスト教文化を受け入れる柔軟さがあった。
宗教は、ある集団の価値観の核であるから、宗教が違えば、行動も考え方も違ってくる。宗教を知ることは、世界を理解することにつながる。
宗教の特徴
主権
・キリスト教
政教分離
・イスラム教
政教一致
・仏教
世俗に無関心
・儒教
政治中心
政治
・キリスト教
民主主義
・イスラム教
神の意思、聖典に従う
・仏教
個人に拠るものだから、無関心
・儒教
聖人が行い、個人は従う
経済
・キリスト教
政教分離前提の資本主義
・イスラム教
聖典によって利子が厳禁
・インド
カースト制度による、機会不平等
・中国
政教分離が不十分
科学
一神教
- 自然は世界の創造主である神が創り出した。
- 自然を観察し、その仕組みを解明しようとする。
一神教
一神教では、神様はこの世の中の基準となるモノだから、基準がいくつもあったら世の中が混乱してしまう。だから、二人以上神様が存在しない。一神教は、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教である。一神教は「神様はいる」と答える地球上の半分以上の人たちの宗教である。
- 一神教の価値観
神様が偉く、神様のために世界が存在している。
人間は神様のために存在している。
神様 > 人間 - 日本の価値観
神様は人間の幸せのために存在している。
人間 > 神様
日本人が考える神と人の関係は「神が人を生む」という関係である。神様は人間の祖先で、神と人間は本質的には同じである。神と人間の関係は、人間関係に類する。
一神教では、人間と神との関係は、異質性の関係である。世界のすべては、神が創り出した被造物で、人間もそのひとつに過ぎない。神様が創りたいように世界を創った。創ったものに満足できなければ、壊すも捨てるも創造主である神の自由である。
神が創ったモノの中で最高級にレベルが高く、自由意志を持っているのが人間だ。人間は、神の意図とは関係なく「自分が何をするか」決められる。この結果、人間は、神の意図と反することを行うようになった。神の意図と反することは、罪である。神は罪を犯した人間を罰した。人間が罪を犯さないように、神は律法を創り、人間は「律法を守る」という契約を神と結んだ。一神教、ユダヤ教の事始めである。ユダヤ教を源流とするキリスト教やイスラム教も、神と人間の契約を絶対視する。
仏教
この世界、宇宙のすべての事象は、普遍の法則に従って起こる。法則は誰かが決めるものではなく、現実をありのままに見つめる中で見出されるものだ。絶対的な神様がいて法則を創り出したという一神教とは、根本から異なる。宇宙のすべてが法則の支配下にあり、神様も例外ではない。一神教の神様のような創造主は存在しない。
儒教
天
・この世の全てを超越した絶対的な存在である。
・君主は、天からの任命を受けて政治を行う。
忠
・政治的リーダーに従う ( 政治万能主義 ) 。
・臣下が君主を敬い従う。
・君主をトップに置く政治組織は盤石となる。
孝
・血縁を重んじて祖先を敬う ( 祖先崇拝 )。
・子が親を敬う。
・同じ祖先を持つ者は、血縁関係によって結ばれた強固な絆を作る。
「忠」の論理と「孝」の論理の対立を防ぐために「天」という思想が生まれた。
孔子:武力に訴えることをよしとしない
孟子:仁のない君主はただの暴君であるから討ってよい
孟子の思想が朱子学に取り入れられて、明治維新のきっかけとなった。
道教
道教は、儒学で支配階級に上り詰めることができない大衆に対しての宗教である。
道教は、世俗的な成功よりも、自然に身を任せ、現世での利益を叶えることを説く。
日本の宗教
日本の宗教
神道には経典や教義はなく、創始者もいない。自然発生的に生まれた日本の宗教である。
- 日本の神は極めて人間的である。
- 神は人を生み、人と同じように行動する。
- 万能の唯一神は存在せず、それぞれに役割がある。
私たちが神々に求めるのは、現世の利益で、神と人とは利害関係にある。
日本人は「神様は分業制なので、神様は大勢いた方がいい」と考え、たくさんの神々と仲良くしてきた。
日本の神:恵比寿・大黒天
インドの神:毘沙門天・弁財天
中国の神:福禄寿・寿老人
中国の僧:布袋
日本人は努力しても、どうにもならない時にだけ、「神様に少し助けてもらおう」と考える。
日本の宗教の歴史
自然環境に恵まれ、民族の存亡にかかわるような衝突の経験もない日本人は「この社会は間違っている」という思いを強く持つことなく過ごしてきた。だから「万能な神や政治家に全権委任しよう」という発想にはならない。神様の役割は限定的なほうがいい。神様にしろ政治家にしろ、勝手に社会を作り変えるほどの力を持たせないためにも、誰とでも広く付き合う姿勢が好まれた。
国の統治に利用する目的で、大陸から仏教が取り入れられた。聖徳太子が国政を担うようになると、豪族の力を抑え、中央集権化を進めるために、仏教を導入した。仏教は政策のひとつだった。
古来から続いてきた神々への信仰と仏教は、対立することなく、融合していった。神と仏を一緒に祀るようになっていった。 = 神仏習合
大陸からは、仏教だけでなく、儒教や道教も伝わってきて、それらが入り混じって、日本の仏教は、独自の進化を遂げていった。
江戸幕府は、儒学を元にした朱子学を重んじた。武士に朱子学を学ぶことを奨励することで、世を統治しようとした。しかし、幕府の意図とは異なる副作用が出た。「天皇こそが絶対」という尊皇思想である。尊皇思想が、倒幕へとつながった。
天皇中心の政治体制を摂る明治政府が誕生した。
- 明治政府は、神仏分離を行い、近代化のため、信仰の自由を認めた。
・天皇中心の政治体制を保つため「神道は宗教にあらず」とした。
・神道は、日本人の生活や風俗や習慣に溶け込んでいるので「神道は宗教にあらず」とした。 - 天皇崇拝の国家神道が確立された。
- 第二次世界大戦で敗戦後、国家と神道が分離し、信仰の自由が守られるようになった。
- 国家神道を推進して戦争へと突入し敗戦した歴史は、日本人に強い宗教アレルギーを残してしまった。
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